精神科ポータルサイト サイキュレ - Psychiatry Curation

精神科医療関係者様の会員登録をお待ちしております。  新規会員登録  ログイン

コラム

精神疾患の「ココロの詩」、社会へ届け
ある歌手の統合失調症の母の思い出

詩は叫びである

精神疾患者から「ココロの詩」を募集し最優秀作品には歌曲としてメジャーデビューをしてもらう企画は好評で、先日応募の締め切りとなった。基本的に「詩」のクオリティを審査する予定だが、参考までに自分の病状や遍歴、置かれている状況などのストーリーも任意で記載していただいているが、そのストーリーも心打つものが多い。

その中で目立つのは統合失調症の方の作品だ。書き添えてあるストーリーも幻聴や幻覚に悩まされながら、懸命に生きつつ、疾患と、そして社会のスティグマという2つの闘いを強いられている状況はまさに苦難。その中で生きる人々の言葉、その詩に圧倒されながら、すべては叫びのような切実さで迫ってくる。

 現在、審査中の段階のために作品についての詳細は追ってお知らせしたいが、まずはその詩がすべて「リアルな」言葉に満ちていることに感謝しながらも、いざ歌曲にした時に、統合失調層のリアルな現実やアスペルガー症候群の方の世界観を歌える人がいるのだろうか、との不安も出てくる。音楽関係者やレコード会社とも打ち合わせを重ねており、専門領域の知見を得ながら、作品と歌い手の選定は慎重を期したい、と考えている。

統合失調症の母

このケアステージの活動は詩の募集だけではなく、福祉施設へ「本物の歌」を届ける活動も行っている。先日は埼玉県上尾市の就労移行支援事業所「チャオ上尾」で歌手の田山ひろしさん、逢川まさきさんに登場してもらい、歌とトークを披露した。

私も同席したその場所で、参加者を前に田山さんは自分と精神疾患であった母親との思い出話となった。私も、田山さんの家族の疾患について知識として知っていたが、その情景を描写されると、過去の出来事はリアリティを増し、心に迫ってくる。

「人に言ったことはなかったのですが、こういう場に来て、自然に言葉になりました」と計画したうえでの話ではなかったのだが、その入退院を繰り返していた母親の話は多くのメッセージを含んでいる、と思う。

1972年広島県出身の田山さんは一人っ子として育ち、父親が水道工事関連の職人で、田山さん自身も高校卒業後に職人の道に進んだものの、つきあっていた女性にふられ、失恋の痛手を歌が癒してくれたことから、歌手を目指し上京。30歳を過ぎた2003年に「おとこの春」でメジャーデビューした。

軽妙なトークとこぶしの効いた歌唱で聴衆を引き付ける田山さんは、上尾の会場でも快調に女性にふられ意気消沈した様子を語っていたが、その後に母親との思い出を語り始めた。

母親は統合失調症と思われる症状があり、幻覚の中で小学生だった田山さんのことを「お前は私を殺しに来たのか」と「母親とは思えない形相」でにらみつけてきた。その形相に「俺やで、俺やで」と息子であることを切実に訴えたという。

風呂場で溺死

その母親は自宅のふろ場で溺死した。

入退院を繰り返していた母親が退院の日、自宅に戻った母親に父親はゆっくりお風呂でも入って、と蛇口をひねり、湯船にお湯を張り、母親がその湯船につかってしばらくして息を引き取っていた。田山さんは、「おそらくいろいろな薬を飲まされて体の抵抗力もなくなっていたのでしょうね」と話す。その後、父親はしばらく風呂には入れず、精神的ショックは尾を引いた。

田山さんは小学生だった頃、息子の自分を認識しない母親に正気に戻ってほしくて、母親を叩いた経験が、心の傷として残ったままだ。

「何の病気かもわからず、ただ怖くて、悲しくてでしょうねえ、しょうがないことだったのでしょうかねえ」。

今も煩悶は続く。その思い出の傷は深く心を抉ったまま、田山さんの過去に影を落としているようだ。

精神疾患の方々を前にして、母親の思い出が口から出てしまったのは、「自然」とはいえ、その自然の中に田山さんの歌手として果たすべき役割は何かを、田山さん自身も考え始めている。

各地でHUGを実施

昨年秋から各地の福祉事業所などで展開しているケアステージHUGは、アーティストと障がいのある方々との出会いが繰り広げられている。小さな一瞬とはいえ、その積み重なりや連なりが何かの形になると考えている。

先日、NHKラジオの生放送「きらめき歌謡ライブ」に出演したケアステージHUGのアンバサダーであるピアノコーラスグループPsalm(サーム)は、アナウンサーから「ケアステージHUG」の説明を求められた。ケアとステージをつなげる取組に多くの方々に賛同してもらいたい。

その小さなコミュニティを参加者が心打つステージにしたいと思いつつ、田山さんのように、参加するアーティストがその体験により変化するさまも面白い。演者と聞き手の共同作業としての可能性の広がりも予感させる。

ココロの詩はどんな作品がグランプリに輝き、歌曲として世に出ていくのか。審査をする立場としても楽しみだ。ケアステージHUGの参加ご要望、ライブ情報は「ケアステージ推進プロジェクト」のホームページでご覧ください。

  • 654人見ました
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ページの先頭へ

コラムニスト

    ページの先頭へ

    facebookコメント

    ページの先頭へ

    関連コラム

    ページの先頭へ


    Top