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コラム

「ヘンテコ オチャメ」が街をいく
多様性と創造性の中で描く「ポズック楽団」の未来

風光明媚の中で

キャッチコピーは「ヘンテコ オチャメナ」。

その名はポズック楽団。

2018年秋に東京発進出の公演を目の当たりにした障がい者と支援者によるチンドン屋だ。そこで受けた面白さの衝撃が忘れられず、和歌山県紀の川市の就労継続支援B型事業所ポズックが営む楽団の本拠を訪れ、風光明媚な環境の中でメンバーがのびのびと練習に勤しみ、同時にイラストやアート作品の制作に取り組む真剣な姿を目の当たりにした。

粉河寺の門前駅であるJR和歌山線粉河駅。駅前の古いレンガ塀に囲まれた大正時代の旧家「山崎邸」には、ポズックの運営母体である社会福祉法人一麦会が運営するカフェ・展示スペースがある。この20畳の大広間が楽団の練習場だ。音を合わせながら、それぞれの動きを確認する。リードするのは支援員の3人。

「ここな、するするっと忍者のようにまわって」。

身振り手振りを加えながら、わかりやすいイメージで指示するのも必須だ。

「ほな、やってみよか」。

繰り返しのうちにだんだんとよくなるそれぞれの動きに不安と自信が入り混じる。疲れがピークに達し、一同最後のキメのポーズをそろえたところで終了。一行は歩いてすぐの作業所に移動する。

始まりはストレス発散

なぜチンドン屋なのか。ステージでメンバーをリードする支援員の奥野麻美さんによると、チンドン屋の始まりは「ストレス発散」だったとのこと。2014年秋にストレス解消で太鼓を叩き始め、踊り出したら「面白い」となり、やがて衣装を合わせて音を合わせて楽しむうちに、近くの幼稚園に呼ばれて演舞、チンドン屋になったというのが誕生のプロセスである。

いつから始まった、よりは、いつの間にか今があり、出来上がってきて、そして「まだまだですけど」というのが実感のようだ。各地からの要望を受け公演に出向くようになって約2年になる。就労継続支援事業の有料サービスとして位置づけているが、「ボランティアでお願い」という声も少なくないようだ。

練習は「やりすぎると飽きる」(奥野さん)から週二回のペース。演目は「ポズック行進曲」「東京節」「決めよう節」「草競馬」などの20曲のほか、子供と交じり合う手遊びやお笑い系の寸劇のもある。舞台は笑いに包まれるのが常だが、デザインアートの雑貨の製作・販売を生業とするポズックはチンドン屋の衣装、楽器はすべて廃材やゴミなどの再利用だ。それぞれがアート作品でもある。制作をアーティストの観点からリードするのは絵描きの奥野亮平さんだ。作業所でメンバーとおしゃべりしながら奥野さんは「メンバー、実はそのままが一番面白いんです」と話す。

アート表現のびのび

 ポズックの運営母体、一麦会(和歌山市)は1977年に無認可の心身障害者共同作業所「たつのこ共同作業所」(無認可)を出発点にして、生活支援、就労支援、グループホーム、障害児支援、ひきこもり者支援などの38事業を行っている。

無認可で道なき道を作ってきた伝統はこのポズックにも生きているのだろう。支援者と被支援者という関係ではなく、地域社会の中で「共に歩み、共に働く」の40年間にわたる実践の一環だ。戦後、地域で活発していた青年学級の活動が風前の灯になった今も当事者活動である「青年学級すばらしき仲間たち」を展開している。

粉河駅にほど近い作業所が拠点のポズックだが、この拠点ではメンバーがアート作品の創作を中心にした日常作業を行う。絵や言葉をカラフルな色彩に描いたり、オリジナリティあるだるまの制作、創造的な怪獣のイラスト等、それぞれの個性が奥野亮平さん制作の作品などがあり、アーティスティックで楽しげな雰囲気だ。

統合失調症で幻聴・幻覚に悩まされている利用者には専用の机でアートを目の前にして作業に従事してもらい、対人関係が不安定な人は個室で行うなど、それぞれの障害特性にあったスペースを確保している。

綱渡りのB型経営だとスタッフは苦笑いをしながらも作業所は笑いと会話に包まれており、居場所としての確実な機能と生産をリンクするモチベーションの高さに、柔らかさを感じる珍しいタイプの事業所である。

笑ってくれてうれしい

演者にインタビューを試みようとすると、一同はやや緊張した面持ち。その中で先陣を切るのは周囲から「ほんま、大した才能やわ」と評される中村大樹さんだ。チンドン屋の舞台では「センター」を務め、キャッチコピーは「ダウン界の王子」。作業所では創造的な怪獣のイラストを次々と生み出している。チンドン屋について中村さんは「踊ることが楽しい。難しいけど修行します」と人懐っこい笑顔で前向きだ。

ゆたんぽをおなかにあてた格好で不思議な楽器を奏でる瀧川幸法さんも舞台の中央で演舞する一人。「お客さんが笑ってくれる時が楽しい」と話し、ドリフターズ好きもあり「もっと新しい寸劇をやっていきたい」と意欲的だ。

舞台に花をふりまいたり、華やかな演出をする坂上加那子さんは「みんなの前で踊ったり、みんなが笑顔になったりするのがうれしい」とはにかんだ笑顔で話す。高橋茉奈美さんは小さなカラフルで小さな傘を持って踊る「傘小娘」。練習での繰り返しも「頑張っています」と話し、緊張しながらも楽しんでいるという。

公演で見せたあの楽しいチンドンは楽しげな日常、カラフルな創作の日々から生まれてくるのだ、と実感し、公演で観客に放ったあの一言がぐっとくる。

ポズック行くところに福来る―。

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